第一話 事業運営編

第一話

#1 KKDJ社長の実体験 現場経験は重要ではない

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社
代表取締役社長


若月 貴子 氏

動画×PDCAの“しつこさ”が生む現場力

高橋:業績が非常に好調と伺っていますが、秘訣はどんなことなんでしょうか。

若月:いわゆるドーナツブームというのもあると思いますし、商品開発・サービスの向上に取り組んできた結果だと思っていますけど、やはり突き詰めると長年築き上げてきた現場の着地力の高さでしょうか。月並みなことをやっていたとしても現場の徹底度が高ければお客様に品質や思いが伝わります。当社の強みってそこかなと思っています。

高橋:着地力や徹底力についてもう少し具体的に教えていただけますか。

若月:どんなに良い企画を作っても現場でしっかり実行できないと、企画の効果は半減しますよね。本社で決めたことが現場でどれだけ確実に実行できるかということですね。現場ってたくさんあって、色々な人が働いていて、理解度のレベルも個人ごとに違う状況で、8~9割できるようになるということが着地度かなと思っています。

高橋:現場実行力の重要性は、多くの経営者がわかってはいるけど高めるとなると難しいテーマですね。御社はどのようにして着地力を高めてこられたんでしょうか。

若月:1つは、こちらから発信する内容をなるべく現場にわかりやすいコンテンツ、当社の場合は動画にすることです。マニュアルや企画書だけでは弱いと思っていて、やっぱり視覚とか聴覚、五感で色々見せると、実際に現場に立った時にできることって随分品質が上がってくると思います。さらに視聴率や取り組みの結果の検証についてPDCAを回していっているので確実にレベルアップしていきます。当社の現場力の高さってそういう「しつこさ」がポイントだと思います。

高橋:どれぐらいの頻度で企画を立てて発信されて実行というサイクルなんですか?

若月:2つあって、1つは新しいプロモーションごとに6~8週間単位で回していくPDCAです。もう1つは、レシートアンケートの結果を見ながら半期ごとに満足度の振り返りを行います。年8回ぐらいですかね。

高橋:更に週次のサイクルというのもありますよね。大きくはこの3サイクルぐらいで回されてるってことなんですか?

若月:そうですね。当社の店舗のことをリテールって呼ぶんですけど、リテールの部門に関してはそれがメインですね。製造はプロモーションごとが多いです。商品が変わると、それによってトッピングなどの手順が変わるので、そこが大きいですよね。

#2 ホスピタリティを上げる 8割までの標準化

8割の標準化× 2割の創意工夫で人材育成を仕組化

高橋:ありがとうございます。少し違う切り口のご質問なんですけれども、最近は人手不足や消費の減少を見込んで、出店控えや積極的に閉店する企業が多くなっています。御社は出店を加速されてますがなぜできるんでしょうか。

若月:2024年度はおそらく過去最大の出店だったんですよね。当社は以前大量閉店したことがありますが、その前も2桁出店というのをやっていました。その頃の出店は、従業員が全員中途なので、過去の職場で培ってきたノウハウを使う、属人性の高いマネジメントでした。大量閉店のあとは会社のスタンダードを作って仕組化に取り組んできたので、出店するための社内の体制、トレーニングの仕方などを整えてきたことが、効率的な出店につながっているのはありますよね。

高橋:では大量閉店された時と今だと、組織の体質がかなり変わっているんですね。

若月:変わっていますね。昔は際立って能力が高い人がいて、その人が周りの人に影響力を及ぼすことで組織を作っていく形だったんですけど、やっぱりその際立った人というのは、それぞれやり方が違うんですよね。 そうすると、異動などで別のお店に行くとやり方が違って、また覚え直しになってしまいます。今は8割までは全社で同じやり方をして、残りの2割は店舗で工夫をしてホスピタリティを上げていくというやり方に変えていますね。

高橋:8割までは標準化して、残りの2割は各自の創意工夫ということですか。標準化というキーワードからは平凡というかネガティブな印象もあったのではないでしょうか。

若月:もちろん、反対意見はありました。ただ、お客様はクリスピー・クリーム・ドーナツというブランドに対して持っている期待感があって、それをどこのお店でも同じように体験できることが大事なので、それは仕組み化していきますと伝えました。ただ、個別の裁量をなくす必要はなくて、2割ぐらいは店舗独自の工夫をしてホスピタリティを上げていけると良いと思います。

高橋:この8割の標準的なやり方と2割の創意工夫というのは、例えばどんなことが当てはまるのですか?

若月:当社にはSWEETというサービススタンダードがあります。Smile、Welcome、Entice、Engage、Thank youの頭文字をとったものです。これをきちんと実践できることは8割かなと思っています。

高橋: 求められる水準がはっきり決められてるということですね。2割の方はどうなりますか?

若月:それはお客様とコミュニケーションするところが該当すると思うんですよね。接客レベルが高い人のポイントはなかなかマニュアルで教えられることではない、そこが1番の創意工夫かなと思います。ただやっぱりまず重要なのは、どのお店に行ってもお客様の期待を裏切らない、SWEETをちゃんと守るというところだと思っています。

#3 出店するだけが成長ではない

フランチャイザーと株主の一体化が出店を後押し

高橋:また違う質問なんですけれども、2020年に米国法人の子会社になりましたけど、この影響はありましたか?

若月:大きかったと思いますよ。株主とフランチャイザーが同一になったので、成長戦略とかやりたいことの矛盾がなくなって、日本の我々が思っていたことと一緒だったので、その辺りは加速化できたと思っています。

高橋: MBOもファンドによる買収も増えているわけですけど、御社は株主が一本化されて経営上はプラスになったということですね。

若月:そうですね。ファンドさんと違ってフランチャイザーさんが買ったってことは、日本の市場において長期で結果を出したいということです。ちょうどコロナ禍に入るころで、出店計画をどうしようかというタイミングだったのですが、本国が継続出店について背中を押してくれました。日本の企業ではなかなか判断が難しかったと思うんですよね。 アメリカは復活が早かったですから。

高橋:米国本社の日本法人に対する期待はどんなことがあったんですか?

若月:当時は店舗数も売上もずっと同じぐらいで止まってたんですよね。ただ、まだまだ日本に成長の余地があるという彼らも思っていて、それに対してもう少しアクセル踏んでくれというのは、1番の期待値だったかなと思います。

日本上陸20周年へ向け、さらに愛されるブランドを目指す

高橋:最後のご質問です。今後の目標を教えていただけますでしょうか。

若月:今82店舗ですが、今年もまた出店計画していますし、近いうちに100店舗になると思っていて、来年2026年が日本上陸20周年なんです。海外から来る飲食のブランドで5年以上残るのって難しい中で、古いブランドさんは本当に定着されてますけど、私達みたいな比較的最近入ってきたブランドってなかなか根付かない中で20周年というのは、自画自賛ですけど頑張ってきたと思うので、これをこのまま日本のお客様にずっと愛されるようにしてくというのが我々のお仕事かなと思います。

高橋:非常にブランドとしてもエッジが立ってるし、素晴らしいと思います。もっと長期の目標はあるんですか?

若月:外食に限らず、スーパーの中で卸しているやり方もありますし、あとはデリバリーというチャネルもあるので、今の市場環境において単純に出店するというだけが成長ではないと思っているので、その辺りは上手く市場の中身を見ながら、やりたいなとは思っています。

高橋:わかりました。今後ますます楽しみにしています。ありがとうございます。

※内容や人物については取材当時のものであり、最新の情報と一致しない場合があります。