第二話では若月氏の人物像に迫る。キャリアのスタートは西友。その後、コンサルティングファームを経てクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンに入社。最初の会社での経験が現在の意思決定や仕事への取り組みに大きく影響しているという。どのような経験を経て今の若月社長があるのか、お話を伺った。
高橋:次はキャリアについてお尋ねします。まず現在の若月社長像を作られたキャリアというのは、どのようなご経験からでしょうか。
若月:新卒で西友に入って、そのあとコンサルティングファームに行ってそのあと当社です。なので、事業会社、コンサル、事業会社ですね。
高橋:それぞれのキャリアのどういうご経験が今の若月社長の意思決定に繋がっているのでしょうか。
若月: 自分の意思決定とか仕事に対する取り組みというのは最初の会社の影響が大きいですね。私が勤務していた時、西友は非常に大きい負債を抱えていて、リストラや有利子負債の返済などについて常に考えている会社だったんですよ。バブル入社なんですけど、入社してから辞めるまでの15年間、既存店売上高が1回もプラスにならずに辞めちゃったので。
高橋:15年間右肩下がり、なかなか辛いですね。
若月:辛かったですね(笑)。そんな中で子会社も負債が多くて、アドバイザーを雇わずに自分たちで全部考えるというやり方をしてたんですよね。なので、とにかく考えて考えて考え抜く。どんなに難しい環境でも解決策は絶対あるので、そこに胆力持って向き合って考えるというところは最初で学んだのが大きいかなと思います。
高橋:なるほど。所属されていた部署や役割というのは?
若月:私は新卒で入ったんですが店舗に配属されなくて、最初から経営企画なんですよね。海外法人やファイナンス系の会社を担当したり、西友にいた頃のほとんどがいわゆるリストラクチュアリング、会社売ったりジョイントベンチャー作ったり壊したりみたいな感じだったんですね。
高橋:ずっと経営企画で?
若月:途中で1回ウォルマートに研修に行って、戻ってきてしばらく経って最後の2年ちょっと広報室にいましたね。
高橋:なるほど。特に記憶に残っているプロジェクトとかご経験ってありますか?
若月:金融の子会社を売った案件ですね。その年のM&Aの金額が、日本で1番大きい金額だったんですね。とにかく複雑な案件で、夜中3時4時まで働いて朝早くからまた働くというのを長い間やったんですけど、学びも多かったですね。契約書をどう読み解くとか、どういうふうに構造整理していくかとか、相手方に負けないようにどうアプローチするかなど、すごく勉強になりました。
高橋:その時のご経験というのが2020年の米国法人に株主が変わるというところにも活きていたりするんですか。
若月:そうですよね。アメリカの子会社になって、資本構造を変えてまで日本の市場で成長させていく方法って、事業だけやっていたらなかなか思い浮かばないと思うので、西友時代の経験があったから広く見られるところはあるかなと。
高橋:西友時代に現場経験がないとは思っていませんでしたが、コンサルも現場がないですから、クリスピーさんに入ってから多少は現場に出られたりしたんですか。
若月:西友の最後の2、3年でやった広報室でスーパーを学ぶ機会があったんですね。広報の立場で話さなければいけないので、色々な部門の人に西友の本業のお話を教えてもらえたりして、コンサル時代に活きたのってそっちの経験だったんですよね。
高橋:なるほど。最近はコンサルから事業会社の社長になられるケースも結構多いと思うんですけど、必ずしも現場経験が必要ではないってことなんですかね。
若月:机上の空論でわかった気になったらだめですよね。わからないことをわからないと言えて、現場の人に教えてもらう姿勢がある人はコンサルから事業会社でも問題ないのではないでしょうか。
高橋:現場をとてもよく理解していらっしゃるので勤務経験がないのは意外でしたね。それ以外に現在の若月社長を作っているご経験の中でどんなことが重要だったんでしょうか。
若月:コンサル時代に、お客さんと一緒にいい企画を作っても、その通りに実行されないことがあり、自分が実行する側になりたいと考えるようになったんですね。それが今の立場につながっていると思います。あと、西友からウォルマートに変わったときに、経営層に近い仕事が多かったので、理念やカルチャーの浸透が人を動かすのに大事だということを学んだんです。本部で全体を俯瞰して、多面的に見ながらカルチャーや現場それぞれの大切さを自分の中で組み立てて積み上げてきた、そういうところはあると思います。
高橋:ウォルマートもクリスピーもアメリカの会社ですが、共通点はあるんですか?アメリカの会社は理念をより強く打ちだしている印象がありますね。
若月:おっしゃる通りで、それを私はウォルマートで学びました。ウォルマートの事業成長の軸はやっぱりカルチャーで、西友が買収された時もカルチャーの浸透にものすごく時間をかけていました。 私自身もウォルマートの本社でファイナンスチームのインターンをやったんですけど、ファイナンスの管理の仕方とか事業戦略の立て方というよりは、カルチャーとはこうやるべきだ、こういう考え方でするべきだというところを現場でも研修でも体験して、理念やカルチャーの強さを実感しました。
高橋:ファイナンスにカルチャーが持ち込まれるというのは?
若月:最初の買収直後のことですが、ファイナンスチームにイギリスから来た人がサポートに入ったことがありました。彼は元々会計士で、ウォルマートのイギリスの子会社に入社してまだ半年も経ってない経歴の人。クレジットカードの手数料について、日本は他国より料率が高いので下げたいという趣旨の話をしたら、彼から「下げたらもっとお客様はうれしいね」って言葉が返ってきたんです。私は「下げたら儲かるよね」って言おうとしたのに。まだ数か月しかウォルマートで働いてなくて、しかもバックグラウンドが会計士の人に、「料率下げたらお客様にとってすごくいいね」って言われたことが大きなカルチャーショックでした。あまりに衝撃的だったので、周囲にその話を何度となくしていたら、「じゃあアメリカに行って勉強しなさい」みたいになっちゃって(笑)本国の研修に行かせてもらったんです。
高橋:そういうことなんですね。ファイナンスとカルチャー、一見あまり関係なさそうなところでも、意思決定に何を追求する会社なのかというところが大きく影響しているということですね。
若月:そうですね。実際アメリカに行ってみると、EDLP(エブリデー・ロープライス)もカルチャーで説明するんですよね。お客様にとってどういう商売の在り方がいいかってことを共有するので、働く人も腹落ちしやすいですよね。
高橋:クリスピーのカルチャーというのは、どういう風に取り込んでいかれたんですか?
若月:クリスピー・クリームが大事にしている概念に”Joy”という考え方があります。私達はドーナツを通じて、お客様にジョイをお届けしている会社なので、そのJoyをお届けするためにはどうしたらいいかを考えていくプロセスが、クリスピーのブランド観について身につくことになったのかなと。
高橋:ありがとうございます。最後になりますが、若月社長ご自身の今後の目標を教えてください。
若月:クリスピー・クリームという会社、ブランドが、更に日本でお客様に愛してもらえるにはと考えるのは1番わかりやすい目の前に広がってる目標です。ただそこもいつかは終わりが来るので、その後を考えると、起業なのかもしれません。何か日本の為になることをしたいなと思いますけどね。
高橋:今のまま、Joyを届けまくるのでも日本にすごく貢献している感じはありますけどね。
若月:もう行っていいよって言われるまで頑張れればいいなと思っていますけど(笑)。
高橋:ずっといてくれって言われるに決まってますよね(笑)。ありがとうございました。