
高橋:ホットパレットにご就任された時、本部はゼロからスタートだったとお伺いしているのですが、その時の状況や心境についてお聞かせください。
松本:「大変だな」というのが正直なところでした。カーブアウト(事業切り出し)でペッパーランチ事業だけファンドが変わったのですが、店舗のみが対象で、本部の機能や組織は丸きりゼロだったんです。前の会社がTSAという形で1年間今までの業務をし、その間に人を採用し、引き継ぎを受けて1年後に独立するという契約でしたが、1年では無理で丸々3年かかってしまいました。
高橋: TSAの期間、元の会社から動いていただいていた人数はどれぐらいの規模なんですか?
松本:本部のペッパーランチ事業メンバーは70~80名ぐらいでした。
高橋: それが1年後には0になるという船出だった。よく引き受けられましたね。
松本:ちょうどコロナが一番大変な時期で、外食業にわざわざ行く人はいないという状況だったので、採用と引き継ぎに苦労しました。
高橋:いろいろやらなくちゃいけない中で、まず何を優先されたんですか?
松本:最初に「仮想組織図」を作ったんですね。どの機能が必要で、何ができる人が必要なのか、採用するうえでどんな人が必要なのかを自分が把握しないと動けなかったので、商品部、営業部、といった組織図を急いで作りました。
松本:採用が進んでいく中でいちばん苦労したのは、人によってルールが違うことでした。A社から来た人、B社から来た人、それぞれが前の会社のルールを持ってくるわけです。
そこで、組織図を元に整理していったんですね。例えば商品部ですと、メニュー改訂をするのにいつまでに何をするか。メニューの写真を撮るのはいつまで、メニュー表として仕上げるのはいつまで、こういう1つ1つの業務フローを統一するのに結構エネルギーを使いました。
高橋: 国内160店舗を運営していてほとんど業務フローがない状態は、相当大変ですね。
松本: 9月に事業をスタートし、11月末に全社員を集めて、3日間全員に業務フローを書かせたんです。業務が整然と流れないと、結局最終的に全部負担がいくのは店になりますので。
高橋:現場の士気はどうやって上げられていったんでしょうか?
松本:本部は新しい人ばかりでしたが、現場は、「ファンドに買われた」「ファンドが雇った新しい社長が来た」というある意味二重のショックを受けているので、ネガティブな雰囲気はありました。当時からいる営業本部長や営業のSV(スーパーバイザー)と、「この会社の未来を作るのはこのメンバーだ」と話しました。
高橋: SVは何人ぐらいいらしたんですか?
松本:10人ぐらいですね。未来をつくるこのメンバーで新しい社名を作ろうということで、お客様に提供したい価値は何か、みんなで出しあったところ、「熱々の料理」「楽しさ」「喜び」「シズル」などいろんな言葉が出てきたんですね。これを「ホット」に集約しました。
次に、従業員にどんな価値を届けたいのか、どんな会社にしたいのかいうこと考え、「生き生き」「一人ひとりの個性が混ざり合う」などが出てきたんです。それを「パレット」とし、社名を「ホットパレット」にしたんです。
高橋: 採用と並行して12名で社名を考えるワークショップをされたと。それはモチベーションが上がりますよね。
松本:経営理念も新しく入った30代の社員2名とプロパーの営業本部長と企画室のメンバーで、1週間かけて作ってもらいました。
高橋: 社名を考える前と考えた後だと、手応え的には違った感じでしたか?
松本:前を向くようになりましたよね。「自分たちどうなるんだろう」といったマイナスな発言が多かったんですが、「こういうふうにしたい」「そのためには何をしなきゃいけないか」みたいな話が増えてきて、私もある意味ではリードしますけれど、そういった方向に話が進んでいったのが1つ大きな変化かなと思います。
高橋: コアのメンバーの方々で社名を決めたとなると、その後の展開もスムーズになりましたか?
松本:なぜ「ホットパレット」という名前なのかということをあらゆる場所で自分が説明をする、それはすごく良かったかなと思います。
高橋:ほかに、会社立ち上げの際にこだわったことはありますか。
松本:働き方の部分ですかね。小さいお子さんがいたり、親の介護で辞めざるを得ない優秀な人を見てきましたので、「フレックス」「在宅勤務OK」という環境を作ることにこだわりました。女性比率は半分ぐらいありましたからね。
高橋:外食の中ではめずらしいですね。
松本:本当に助かりましたからね。地元の主婦の方が働いてくれるっていうのは、すごく。お店もそうですけれど、本部も一緒で、そういった意味では働きやすい環境づくりは最初からかなり気を遣ったかなと思います。
高橋:御社の特徴として、海外店舗数が非常に多いですが、海外事業はご就任当時から着目していたんでしょうか?
松本: 私が入った時にはすでにアジアで300店舗、オーストラリアで10店舗、アメリカで5店舗くらいの展開をしていました。1番大きなマーケットであるはずのアメリカがまだ5店しかなかったというのがあり、日本国内の事業を進めながらアメリカに出ていくという方針は最初に話をしています。
高橋:日本の外食業で、アメリカでフランチャイズ展開している会社は多くないと思うのですが、そこは勝ち筋がありましたか。
松本:サントリーグループがフランチャイズでアジアに300店舗広げた実績がありましたので、ノウハウもリソースも人もいます。彼らのエネルギーを自分たちがうまく活かせれば十分可能性はあると考えていました。
高橋:フランチャイズ事業を進めるにあたって、ローカルのパートナー選びは非常に難しいと思うのですが、どんな基準なのでしょうか?
松本:一番重要なのは、候補に上がっている会社の運営力です。他にも事業をされていることが多いので、その事業の状況がうまくいっているか、人がちゃんと揃っているか、プラス資金力があるか。これから先任せた時にそれを運営するだけの土台があるかどうかがすごく重要です。
高橋:現地スタッフの育成は、日本式と現地式はどのように分けられているんでしょうか。
松本:日本式は通用しないと思った方がいいです。日本の感覚は、諸外国からしてみると特殊です。法律も考え方も教育も違うので、我々が持っている狭い感覚でこういう風にしなさいと言っても絶対受け入れられないし、それで持って行ったとしてもどこかで必ずハレーションが起きるんですよ。
高橋:例えば日本人にとっては当たり前だけど通用しないことって何かありますか。
松本:この例が正しいかどうか分からないんですけれど、我々は器に入っている食べ物を床に置いたりしませんが、国によっては普通なんですよ。だいぶ減ってはいますが。全然慣習が違う。良い悪いの判断軸も全然違うわけです。
人に対しての評価の仕方も国それぞれで違います。これはホットパレットに入る前ですが、アメリカ人と話をしていると本当に数字と状態基準に対してシビアで、頑張っているとか努力をしているとかは関係ないんです。みんな頑張っていて頑張ってない人はいないと。あくまでも成果を出しているか出していないかだとスパッと言われたことがあって、アメリカは違うんだと感じました。
高橋: なるほど。 ただ外食業のお店の中は非常にアナログな世界ですよね。評価基準として、状態基準、成果と言われても、結構チームプレーも重要じゃないですか。それはどうやって採点しているんでしょうか?
松本:言われた話ですが、自分のことをしっかりできない人が人のことをフォローしてもうまくいかない。まず自分のことをしっかりやっていないと駄目だと。日本だと、自分が大変でも結構人のことをサポートしていたり、それが良いような雰囲気になるじゃないですか。
我々の感覚でそれをやりなさいと言っても多分通用しないんですよね。微妙な違いはやはり現地の人間しかわからないし、我々がビジネスを持っていく上で重要なのは、ブランドの品質や接客基準は守らせないといけないが、それをどうやるかはある程度任せる必要があるってことです。
高橋: なるほど。ブランド基準のWhatは決めるけれど、国ごとの風習、文化などいろんな要素があるので、それをどうやって守らせるかのHowは各国ごとFCごとに考えるという役割分担ですね。
高橋:サントリーさんからの海外事業譲り受けの経緯について教えていただくことはできますか?
松本:すごくタイミングが良かったのです。いざアメリカに出る時にはサントリーグループに手伝ってもらいたいと正直思っていたんです。彼らは国をまたいでフランチャイズ展開することに対して必要なことを理解していますし、1番すごいのは日本語、英語、中国語が喋れる。世界どこでも通用するんですよね。彼らが手伝ってくれるとすごくアメリカ進出に対してエネルギーになると思っていた時に、たまたまなんですが、ペッパーランチ事業はアルコールがあまり売れないので、サントリーグループ全体で見ると、シナジー効果が今1つあまり出ていないっていう側面がありました。その中で、我々から協力して欲しい、あるいは一緒にやりたいという話を持ちかけ、タイミングが合ったという形です。本当にサントリーグループがやっていたペッパーランチのアジアのノウハウがすごかったんです。
高橋: そうなんですね。具体的に教えていただけることはございますか?
松本:アジアのSV(スーパーバイザー)は日本のSVと役割が違っています。アジアのSVは一人で3カ国くらい担当し、各国のフランチャイジーのオーナーと直接、経営の話をするんです。年に1回必ずPLをまとめ、監査や衛生検査などのデータもまとめ、フランチャイズに全部報告をしながら来年どうするかかというやり取りをするんですね。
高橋: 日本のSVは10~20店舗を訪問して、お店を改善するアドバイスをするのが一般的なイメージかなと思うんですけど、国をまたいで各国のフランチャイズ加盟店を取りまとめている社長と話をすると。何人ぐらいSVがいらっしゃったんですか?
松本:1人3~4カ国ぐらい持っているので10人いなかったかな?
高橋:加盟店をとりまとめている社長と話すわけだから、PLもBSも読めなきゃいけないし、店舗運営だけではなく組織の運営も分かってないといけないですね。
松本: 特に、新しい国に入って行こうとした時に、法律の問題とかいろんなことが出てくるじゃないですか。でももう何か国もやっているのでやることは全部知っているんですね。
高橋: かつバリエーションが十数カ国分あるので、特徴みたいなものも見えてくると。アメリカだと州ごとに違うみたいな話がありますもんね。そのノウハウの横展開ができるということですね。ありがとうございました。
「ブランドの基準(What)は守り、手法(How)は現地に任せる」という海外戦略の要諦は、実は国内の組織づくりにも共通しています。リーダーがすべてを独断するのではなく、土台を整えた上で、そこに集う人々の専門性や個性を信じて託す。その積み重ねが、世界中に「熱々」の喜びを広げる原動力となっているのでしょう。