
高橋:外食のご経験が長い中で、特にすかいらーく時代に最も影響を受けた出来事を教えてください。
松本:一番影響を受け、外食とはこういうことだとすごく学んだのが、バーミヤンでアシスタントをしていた入社1年目の時です。当時バーミヤンの業績がすごく悪く、このままでは畳むしかないという状況で、当時のバーミヤン社長の伊藤康孝さんが「畳むのだったら最後に実験をやろう」と、たまたま私がいるお店で実験をやったんです。当時のバーミヤンは客単価が2,000円近く、週末は満席でも平日はガラガラでした。そこで伊藤社長がやったのは、「日常使いできる中華料理店」に変えようという実験でした。今のバーミヤンのベースです。800円ぐらいしたバーミヤンラーメンを390円にしました。33年前のことです。
高橋:33年前で客単価2,000円は相当高いですね。
松本:そうですね。これは聞いた話ですが、すかいらーくは創業時、家族4人が4,000円で食べられることを想定して設計され、レストランが日常的で楽しいものになったとすごく喜ばれたそうです。バーミヤンの場合は、ラーメンと餃子を半額に、客単価は1,000円以内に設定して、私がアシスタントで店長と実験をスタートしたのですが、実験後は客数が倍以上になったんです。
「何が起きたんだろう」というぐらいもう大変な状況で、社運をかけた実験なのでいろんな人が手伝いに来ましたが、その先頭に立っていたのが伊藤社長だったんです。
高橋:なるほど。社長自らが。
松本:本部の人に交じって社長自らが先頭に立って呼び込みをし、メニューの説明をし、洗い場に入る。人の上に立つってこういうことかと肌身に感じました。ただ事業を畳むのではなく、諦めずに自分たちが信じるポリシーをここでやるんだというその思い、考え方もそうですし、いざ走る時にトップが先頭に立つ姿勢を本当に目の当たりにしました。この時の実験と社長の姿は、今でもはっきりと心に焼き付いており、これまでの自分をつくりあげてきたベースになっています。
高橋:入社1年目で社長とその距離感というのは、なかなか外食業では経験できないですよね。
松本: できないです。しかもすかいらーくのような大きな会社で。
高橋:社運をかけたプロジェクトの店に選ばれて、その場にいらっしゃった。持ってますね(笑)
松本:振り返ってみるとすごくラッキーで、そういうことは結構あったかなと正直思います。
高橋:逆に、苦い経験はありますか。
松本:店長の時の話です。アシスタントの後、他店に出て、また戻って、実験をした店で店長になったんですね。当時35歳くらいで知っているメンバーも多く、とにかく人の先頭に立って仕事するんだ!と意気込んでいました。
高橋:伊藤社長の姿を見ていますからね。
松本:一生懸命やっていたんですけれど、徐々にアルバイトスタッフが部活が忙しいとか、家族がどうとかで辞めていくんですね。そしてあるお彼岸の3連休、客数が1,000名を超えたくらい忙しかった日があり、ヘトヘトでした。その夜の11時過ぎぐらいですかね、控え室に大学生のアルバイトの方が10人ぐらいやって来まして、リーダーの大学生に「店長、僕らも辞めます。こんなんじゃやってられません」と告げられました。
高橋:集団離職ですか?
松本:はい。ヘトヘトな上に、本当に血の気が引くというか。もう思考力もなくて、その後リーダーと話をした時に、そのリーダーはもう3~4年も働いてくれているメンバーでしたが、「もっと僕らを見てください。部活が忙しくて辞めたあいつ、実を言うとこういう理由ですよ。あいつはこういう理由ですよ」と聞きました。表面的には当たり障りのない理由なんですけど、結局やっていてつまらないとか、負担が重いとかで辞めていたんですね。それを僕は知らなかった。
高橋:はい。
松本:「店長は自分ばっかり仕事していて、俺たちを何も頼ってくれない。何も言ってくれない。何がいいのか褒めてもくれない。こんなんじゃやってられません。だからみんな辞めます」と。
最初は「何を言ってるんだ」くらいに思っていましたが、本当の理由や思いを聞くと、確かにと納得できるようになりました。そしてリーダーに「どうしたらいい?」と正直に聞いたんです。元々一緒にアシスタントとアルバイトでやっていたので、気心が知れていたんでしょうね。
高橋:なるほど。
松本:「もっと頼ってくれ。ちゃんと俺たちを見て評価してくれ」と言われました。「店長なんだからそんなに仕事しなくていいです。とにかく今、人が全然足りなくなっているから人を採用してください」と言われて、上司に相談をして、採用の媒体にチラシを入れました。ポツンポツンと人が採れるようになったので、そのリーダーには、新人のトレーニングを手伝ってくれとお願いしました。
高橋::今までは全部ご自身でやられていたんですか。
松本:はい。そこからはトレーニングはいつ誰がやるとか、リーダーが全部手配してくれました。半年もしない間に人数は増えて、売り上げも伸びたんです。あの時に思ったのは、店は1人じゃ回らないということ。そしてやっぱり働く人たちが、自分がなぜそれをするのか、何を任されるのか、何を認められるのか、それをちゃんと伝えなきゃいけないということを、新任店長の時に経験できたんです。あの3連休の最終日の夜にその経験があったことによって、後々、店長の在り方、経営者はどう考えるべきかというのが身についたなと思います。
高橋:素晴らしいお話ですね。
高橋:その後キャリアを上げて社長になられるわけですが、この間、リーダーシップのスタイルはどのように変わられていきましたか?
松本:店長の頃は自分がやる、自分が走る、自分が教えるというスタイルで、エリアマネージャーになった時は、マネジメントのノウハウをひたすら店長に教え、店舗に行けばスタッフにもオペレーションの指導をしていました。
そして本社の人事部に異動し、その後で営業部長になったのですが、その時から、様々な事例を見せたり、質問を投げかけ、何が問題でどうしなきゃいけないかを考えさせるようになりました。
社長になってからは、語る内容の幅、大きさが変わりました。どの会社でもどのブランドを持った時でもそうですが、まずブランドの役割が何かを語り、会社がやろうとしている大きな経営理念やビジョンを語り、それが目の前に起きていることと繋がっていることを伝えるようにしました。
高橋: まずは作業者としてちゃんとできるようにというところから始まり、店長になったら役割を決めてマネジメントをできるように、スーパーバイザーになるとそのマネジメントのやり方そのものをティーチングできるように。そして人事になると、いろんなブランド、いろんなタイプのSV、店長がいるので、ティーチングでは無理で、ヒアリングをして引き出すコーチングになり、社長になると根本的なブランドのビジョンやミッションといった概念的なものをもっと伝えていかなくちゃいけないというか、それぞれの階層ごとにだいぶマネジメントやリーダーシップのスタイルは変わってくるということですよね。そういう意味では、外食って人材教育のシステムとして非常に洗練されていますね。
松本:: まとめ、ありがとうございます。素晴らしい!その通りです。
高橋:優秀な店長やリーダーに共通していることは何でしょうか?
松本: 概念的に聞こえるかもしれないですが、やっぱり「学ぶ姿勢、聞く姿勢」があることです。入ってくる情報をストレートに受け取ることができる人は、やっぱり優秀ですし、成長もしますし、先ほどの大学生の話で、自分に対して本音を言ってくれたのも、結果的に言うと彼らの声を聞いているからですよね。
高橋:確かに松本さんに言えば聞いてもらえるだろうというのもあると同時に、松本さんが頑張っているのをみんな知っていたという理由もあるのかなと思いました。
松本:店長として威厳がある、偉ぶっているというのではなくて、店舗で働く背中というか、あるべき姿を見せるとことは大事でしょうね。
高橋:人手不足、原料高騰などで各社値上げなどの対応をしていますが、今後の外食業を見通すとどうなっていきそうでしょうか?
松本:特別なケースを除き、普通の人たちが日常生活の中で外食を楽しむのに、値段はすごく重要な要素ですよね。限られた収入でも、外食は身近な楽しみとか喜びを提供できると思います。今、急激にものの値段が上がっていく中で、調理の技術革新、接客や流通の革命、あるいはお店に限らず、工場や本部の生産性を改善することによって、事業の構成自体を変えていく企業が絶対出てくると思います。それはすかいらーくもそうですし、大きな会社はみんなそれをやってきているんですよ。急に物価が上がって円安などの影響もありますから、そういった努力をする企業は絶対出てきますし、やはり安くて美味しくて身近な、日常生活の中の外食は絶対必要なので、そういった流れがここからまた出てくるかなと思います。
高橋:価格が低くないと広がらないのは間違いないので、昨今のこの情報技術の進化、AIも含めて活用することによって、今まででは考えられない価格でサービス提供する状態が出てくるかもしれません。
高橋:最後に、これから挑戦したいことを教えてください。
松本:ずっと考えているのは、外食で働いている人たちのステータスを上げたいということです。「外食の店長ってかっこいいんだよ」という価値観を広めたいです。実際、自分も店長をやっていろいろな経験をしましたけれど、店長はめちゃくちゃ面白いんですよ。お客様が喜んでくれ、従業員と一緒に努力できる。しかも本当にその場で経験できるんですね。こういった外食の店長の楽しさを、報酬もそうですし、働き方や仕事のスタイルも含めて、ステータスが上げられるような関わり方をしていきたいと思っています。
高橋:私もそう思います。外食の店長は難しいですからね。本当にもっと収入が高くていいと思うので、そういう業態がどんどん出てくるといいなと思っています。ありがとうございました。